感情は、しばしば合理的思考や理性的行動を妨害する要因となり、目的遂行のためには有害なものとされやすい。
しかし、感情は人間の環境への働きかけを動機づけたり、危険を回避する行動を瞬時に指令したりするという、人間の生存にとって極めて重要な役割を担っている。
しかし、感情は人間の環境への働きかけを動機づけたり、危険を回避する行動を瞬時に指令したりするという、人間の生存にとって極めて重要な役割を担っている。
それだけはなく、感情は人間の合理的で適応的な思考や行動に強く影響を及ぼしており、人間の生物学的生存と社会的生存を支える、生存戦略のメカニズムとして機能しているのである。
こうした生存戦略のメカニズムを持つ感情は、環境との相互作用による自然選択の生物進化のプロセスで形成された。
こうした生存戦略のメカニズムを持つ感情は、環境との相互作用による自然選択の生物進化のプロセスで形成された。
動物との共通性を有する、喜び、悲しみ、怒り、恐怖などの基本情動から始まり、人類が集団生活を営むようになると、複雑化した社会関係に適応するために道徳的怒り、罪悪感、同情、共感など様々な複合的な感情も生まれていった。
感情は刺激に対する評価的反応と考えられるが、感情を生み出す脳の部位は大脳辺縁系にある扁桃体である。
扁桃体は刺激を検出し、生体にとって良いものか悪いものかを評価して生理的反応を指令する情動反応を起動させる。ただし、扁桃体は反応が速い反面、情動刺激の検出が粗雑であるため、環境への不適応を起こすことがある。
そこで大脳皮質を発達させた人間は、皮質からの扁桃体の制御により環境に適応的な状況を作り出すが、扁桃体からの指令の方が強いので適切に制御できない場合もある。
感情の進化は、生物進化のプロセスで人類の脳の発達と連動して、ホミニゼーション(ヒト化)を促した。爬虫類脳、哺乳類脳、新哺乳類脳への進化に伴って、生存戦略のメカニズムを発展させていったのである。
しかし、本来個々の感情は野生環境への合理的な適応プログラムとして進化してきたため、文明環境の急激な発展にその進化が追いつかず、非適合的な部分が生じているとされる。
それが現代人にとって感情が有害に感じる部分であると考えられる。
こうした感情の働きを見てみると、多くが非意識過程で処理されており、意識的に自覚できる部分は主観的な感情経験のみである。
認知プロセスについても同じことが言え、意識下で情動系と認知系が密接に絡んで、感情の影響を自動的に受けている。
特に曖昧な状況下ではヒューリスティクス(直観・経験則)を使って情報を処理し、大抵は適応的な判断を行っているのである。ただしヒューリスティクスや潜在認知は知らずのうちにバイアスがかかりやすいので、その点は注意が必要である。
このように感情は生存戦略のメカニズムとして機能することで、想像以上に私たちの思考と行動に大きな影響を及ぼしていると考えられる。
キーワード: 生存戦略のメカニズム、基本情動,扁桃体,感情の進化,ヒューリスティクス